4. 強相関電子系の異常金属相と非従来型超伝導

新しい現象を示す量子状態、量子相の発見こそが物性物理学の発展をもたらしてきたと言って過言ではありません。

身の回りの金属の性質はその中を走り回る電子の運動により支配されています。アルミニウム(Al)など単純な金属では、電子がそれぞれ独立に動き回るという近似、一体近似でその電子状態を記述できます。一方、電子は電荷を持ちお互いの間の斥力を感じます。この電子間相互作用が電子を局在化することで、電子の持つ様々な自由度(電荷、スピン、軌道)が多彩な量子相を生み出すことが知られ、多くの研究者を魅了してきました。その例として、高温超伝導や重い電子状態、多極子秩序など様々な新しい状態が実験的に見つかっています。

一方、電子相関の強い、「強相関電子系」では、もはや、一体近似は成り立たず、アボガドロ数の電子間の相関をすべて取り扱う必要が出てきます。そのため、現状の理論手法では太刀打ちできず、様々な近似法で理解を進める動きがあります。そのなかで、この分野を主導しているのは実験によるその多彩な量子相の解明です。特に、金属の電子論の構築に重要な現象に、強相関電子系における、(一体近似による)準粒子描像が成り立たない「異常金属(Strange Metal)」やBCS理論に従わない「非従来型超伝導」など非自明な現象が多くあります。これらは高温超伝導機構と関係しているだけでなく、量子臨界現象を通じてブラックホールなどの一般相対論と関係があることがわかってきています。

我々はこの新しい金属電子論の構築を目指して、世界的に著名なグループと協力しながら、実験的手法による研究を進めています。本質的な理解に迫る結果を引き出すには、乱れなどのない超純良な単結晶試料を自ら合成することができること、また、再現性の高いデータを高精度で測定できることが必要です。私たちの研究室はまさにこのような世界最先端の環境を備えています。その上で、なるべく単純なハミルトニアンで記述できるような理想的な系を探し出し、低温物性の測定から新しい物理現象を発見することを目的に研究を進めています。

例えば、軌道(電気四極子)揺らぎによる異常金属状態と超伝導の発見があります[1-4]。鉄系超伝導体を始めd電子系ではスピンと軌道両方の自由度を持つために複雑であり、現象の起源を探る物性研究は大変困難です。一方、我々が発見したPrTr2Al20系は低温で軌道(とさらに高次の磁気八極子)の自由度のみを持つ非常にシンプルな系であり、軌道自由度の量子物性の研究に最適です。Al2pの伝導電子と、Pr4fの局在電子との間のエンタングルメントが引き起こす金属状態は、まさに、異常金属の代表例として注目され、高温超伝導の出現など、非常に興味深くチャレンジングなテーマを提供しています。

 

また、最近では、我々がYb系重い電子系では超伝導が現れないという常識を覆して発見した超伝導体YbAlB4[5]が常圧で異常金属相[6,7]を実現し、その発現機構に電荷の量子揺らぎが重要であることを見出しました[8]。これは異常金属の謎を解く重要な手掛かりになるとして期待されています。

関連論文

[1] Y. Shimura et al., Phys. Rev. Lett. 122, 256601 (2019).

[2] M. Tsujimoto et al., Phys. Rev. Lett. 113, 267001 (2014).

[3] K. Matsubayashi et al., Phys. Rev. Lett., 109, 187004 (2012).

[4] A. Sakai and S. Nakatsuji, J. Phys. Soc. Jpn., 80, 063701 (2011).

[5] S. Nakatsuji et al., Nat. Phys., 4, 603 (2008).

[6] T. Matsumoto et al., Science, 331, 316 (2011).

[7] T. Tomita et al., Science, 349, 506 (2015).

[8] K. Kuga et al., Science Adv., 8, 3547 (2018).

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四極子近藤効果と超伝導のイメージ図

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