量子エレクトロニクス

コンピュータやスマートフォンなどで情報の一時保存に用いられているメモリは、情報の維持に多くの電力を消費します。そのため、情報の維持に電力供給を必要としない「不揮発性メモリ」への代替が検討されています。そのひとつとして、磁石(強磁性体)を用いた磁気メモリが有望視されています。磁気メモリでは磁化の向きを情報の単位として、「0」と「1」に対応する電気信号を不揮発に記憶することが可能です。

既存の強磁性体を用いた磁気メモリを高性能化するために、最近では反強磁性体の利用が期待されています。反強磁性体は強磁性体に比べてスピンの応答速度が2〜3桁速く、漏れ磁場の影響がないため、いっそうの高速化・高集積化が不可欠となるビヨンド5G世代の磁気メモリ材料として期待を集めています。しかし、反強磁性体では、隣接する原子のスピンが互いに打ち消しあう反強磁性秩序を形成するため、磁化がほとんどありません。そのため、反強磁性体では磁化の向きを用いた情報の書き込み・読み出しは難しいと考えられていました。

我々は反強磁性体を用いたスピントロニクスデバイス開発のため、さまざまな量子的性質が期待できるトポロジカル物質に着目し研究を進めています。例えばニュートリノなどで知られる素粒子の一つである「ワイル粒子」を持つ反強磁性体「ワイル反強磁性体」では、ワイル粒子が巨大な仮想磁場(実空間換算で100〜1000 テスラの磁場に相当)を創ることで、巨大な異常ホール効果や異常ネルンスト効果といった量子力学的応答が室温で現れることを発見しました(図1)。

最近では、ワイル粒子とそれに付随して起こる電気信号を電気的に制御する手法を開発しました。これはつまり、ワイル粒子を単位としたメモリ機能(情報の書き込み、読み出し)の実証に成功したといえます (図2)。現在、我々は、量子力学や位相幾何学などの現代物理学とスピントロニクス技術を融合させ、脳型計算機や量子コンピュータの実現へつながる技術開発として、多値記憶の可能な革新的なメモリ素子や論理素子等の開発を進めています。

図1 強磁性体(a)と反強磁性体(b)、ワイル反強磁性体Mn3Sn(c)における異常ホール効果
(a) 大きな磁化を持つ強磁性体では異常ホール効果が現れます。一般に、磁化の大きさに比例して異常ホール効果は大きくなります。(b)反強磁性体では磁化が0、もしくは、非常に小さいため、異常ホール効果の測定は困難です。(c)ワイル反強磁性体Mn
3Snでは、ワイル点が創出する仮想磁場の効果により、磁化が非常に小さくても、強磁性体に匹敵するほど大きな異常ホール効果が現れます。

 

 

 


 

 

 

 

 


図2 ワイル反強磁性体Mn3Sn/非磁性金属からなる素子でのホール電圧の電流反転。
(a)ワイル反強磁性体Mn
3Snと白金(Pt)、銅(Cu)、タングステン(W)との積層膜を用いた素子における、ホール電圧の書き込み電流依存性。大きなスピン流の発生が期待できるPtもしくはWからなる素子において、ホール電圧の反転が確認できます。Mn3Sn /W素子ではホール電圧の大きさを×1/2にして表示しています。(b) Mn3Sn /Pt素子を用いた多値記憶の実証実験結果。書き込み電流の大きさを変えるとホール電圧がアナログ的に変化します。

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